遠隔診療 法務ガイド

遠隔医療と医師法:適切な診療を行うための法的解釈と実務ガイド

Tags: 遠隔医療, 医師法, 法務, 実務, コンプライアンス

遠隔医療は、医療機関へのアクセスが困難な患者さんへの医療提供や、医療従事者の働き方改革に貢献する有効な手段として普及が進んでいます。しかし、物理的に患者さんと対面しない診療形態であるため、医師法をはじめとする関連法規の遵守が不可欠です。

本稿では、遠隔医療を適切に行うために理解しておくべき医師法上の解釈と、日々の実務における留意点について解説します。

医師法が遠隔医療にどのように適用されるか

医師法は、医師の資格、業務、倫理などに関する基本的な事項を定める法律です。その根幹には、医師が患者さんに対して適切に「診療」を行う義務があります。

医師法第20条には「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、又は自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付してはならない。」と定められています。これは「無診察診療等の禁止」を定めた規定であり、古くは物理的な対面による「診察」を前提として解釈されてきました。

しかし、情報通信技術の発展に伴い、医師法第20条における「診察」の定義が、対面診療に限定されないと解釈されるようになりました。厚生労働省は、過去の通知等を通じて、適切な情報通信機器を用いることによって医師・患者間の情報伝達が十分に可能であれば、対面診療と同様の「診察」が成立しうるとの見解を示しています。これが、現在の遠隔医療(特にオンライン診療)が法的に認められる根拠の一つとなっています。

遠隔医療における医師法遵守の主要ポイント

遠隔医療において医師法を遵守するために、特に以下の点に留意する必要があります。

1. 「診察」の十分性の確保

遠隔医療における「診察」は、情報通信機器を通じて行われます。医師法第20条が求める「診察」の十分性を確保するためには、画面を通じた視診や、問診による情報収集などを通じて、対面診療に準ずる情報を得られる体制が必要です。

2. 初診と再診に関する解釈

かつては初診での遠隔医療は原則として認められていませんでしたが、法改正やガイドラインの改定により、一定の要件を満たせば初診から遠隔医療を行うことが可能となりました。

3. 診療録の作成義務

医師法第24条により、医師は診療に関する事項を遅滞なく診療録に記載する義務があります。これは遠隔医療においても同様です。

4. 診断書、処方せんの交付

医師法第20条にある通り、診断書や処方せんの交付は自ら診察した医師が行う必要があります。遠隔医療による診察に基づき、これらの書類を交付することは可能です。

実務上の注意点と対応策

医師法上の解釈を踏まえ、日々の遠隔医療を安全かつ適切に行うためには、以下の実務的な対応が重要です。

まとめ

遠隔医療を医師法に則り適切に実施するためには、「診察」の概念を正しく理解し、情報通信技術の特性を踏まえた上での情報収集の十分性を確保することが最も重要です。また、初診時の要件遵守、診療録の適切な記載、診断書・処方せん交付の判断基準、そしてセキュリティや緊急時対応といった実務的な側面の準備も怠ることはできません。

遠隔医療は今後さらに普及していくと考えられます。最新の法改正や関連ガイドラインの動向を常に把握し、変化に対応しながら、患者さんへ安全で質の高い医療を提供できるよう努めてまいりましょう。