遠隔診療 法務ガイド

遠隔医療における問診・診察の注意点:見逃しリスクを減らす実務ガイド

Tags: 遠隔医療, 問診, 診察, 実務, 法的留意点, 見逃し防止, 医療過誤

はじめに

遠隔医療は、地理的、時間的な制約を超えて医療を提供できる有効な手段として普及が進んでいます。特に、クリニック開業医の先生方におかれましても、再診や慢性疾患管理などで積極的に活用されていることと存じます。しかしながら、遠隔医療における問診・診察は、対面診療と比較して得られる情報が限られる場合があり、病態の見逃しリスクが懸念されることも事実です。

本記事では、遠隔医療を安全かつ適切に実施するために、問診・診察の際に特に注意すべき実務上のポイントと、これに関連する法的留意点について解説します。見逃しリスクを最小限に抑え、患者さんへの質の高い医療提供を継続するためのご参考にしていただければ幸いです。

遠隔医療における問診・診察の特性と課題

遠隔医療、特にオンライン診療における問診・診察は、ビデオ通話などを介して行われます。これにより、患者さんの表情や話し方、体全体の様子などを視覚的に把握することは可能ですが、以下のような対面診療にはない特性や課題が存在します。

これらの課題を理解した上で、どのように問診・診察を進めるかが重要となります。

遠隔医療における問診の実務ポイント

限られた情報の中で患者さんの状態を正確に把握するためには、対面以上に丁寧で体系的な問診が求められます。

1. 事前の情報収集と確認

2. 丁寧な聞き取りと患者さんへの指示

遠隔医療における診察の実務ポイント

直接的な身体診察が困難な分、視診を中心とした観察や、患者さん自身に行ってもらう動作の確認などが重要になります。

1. 視診の徹底

2. 聴診・触診の代替方法と限界

見逃しリスクと法的留意点

遠隔医療における診断の見逃しは、医療過誤に繋がる可能性があります。これを防ぐためには、以下の法的留意点を踏まえた実務対応が必要です。

1. 適切な情報収集義務

医師には、患者さんの状態を診断するために必要な情報を適切に収集する義務があります。遠隔医療においてもこの義務は変わらず、限られた環境下で可能な最大限の情報収集を行う努力が求められます。問診や視診に加え、必要に応じて患者さんに自宅での測定(体温、血圧、血糖値など)や写真・動画の提供を依頼することも、情報収集の一環となり得ます。ただし、これらの情報収集方法には限界があることを患者さんにも十分に説明し、理解を得ることが重要です。

2. 診療録(カルテ)の記載

遠隔医療における問診・診察で得られた情報、医師が行った観察、患者さんへの指示内容、そして医師が下した判断(診断、処方、対面診療への移行勧告など)は、対面診療と同様に詳細かつ正確に診療録に記載する必要があります。特に、遠隔診療では直接的な診察が限定されるため、どのような情報に基づいて判断したのか、情報収集の限界をどのように評価したのかなどを具体的に記載しておくことが、後々の検証において重要となります。

3. 適切な判断と対応

遠隔医療で得られた情報のみでは診断が困難である、あるいは緊急性の高い疾患が疑われると判断した場合、速やかに対面診療への切り替えを指示する、他の医療機関への受診を勧める、あるいは救急搬送を手配するなどの適切な対応をとる義務があります。遠隔医療の限界を理解し、安全を最優先する判断が求められます。

4. 説明義務と同意

遠隔医療の特性、特に診断における限界やリスクについて、患者さんに事前に十分に説明し、同意を得ることが重要です。これにより、患者さんの理解と協力が得られやすくなり、トラブルの防止にも繋がります。

見逃しリスクを減らすための実務上の対策

見逃しリスクを減らすためには、日々の実務の中で以下の対策を取り入れることが有効です。

まとめ

遠隔医療における問診・診察は、対面診療とは異なる特性を理解し、それに適した方法で実施することが重要です。限られた情報の中で正確な診断に繋げるためには、事前の情報収集、丁寧な聞き取り、患者さんへの具体的な指示、そして可能な範囲での視診の徹底が求められます。

また、診断の見逃しは法的リスクにも繋がりかねません。適切な情報収集義務、詳細な診療録の記載、そして遠隔医療の限界を認識した上での適切な判断と対応が不可欠です。見逃しリスクを減らすための実務上の対策を継続的に実施することで、遠隔医療を安全かつ効果的に活用し、患者さんへの質の高い医療提供を維持することが可能となります。

遠隔医療は今後ますます普及していくと予想されます。本記事が、日々の診療における一助となれば幸いです。