遠隔診療を保険診療で実施する際の点数算定と請求の留意点
遠隔診療における保険診療対応の重要性
遠隔診療は、患者さんの利便性向上や地域医療への貢献といった多くのメリットを持つ一方、保険診療として実施する際には、複雑な法規制や算定ルールへの正確な理解が不可欠です。特に、日々更新される診療報酬改定の内容を把握し、適切に点数を算定・請求することは、クリニック経営においても重要な課題となります。
本稿では、遠隔診療を保険診療として行う際に医療機関が留意すべき点について、点数算定の基本ルールから具体的な請求方法まで、実務に焦点を当てて解説いたします。
オンライン診療の保険適用に関する基本ルール
オンライン診療(情報通信機器を用いた診療)は、特定の条件を満たす場合に保険診療として認められています。これらの条件は、厚生労働省が定める「情報通信機器を用いた診療に関する指針」や、診療報酬点数表によって細かく規定されています。
主な要件としては、以下の点が挙げられます。
- 施設基準: オンライン診療を行うために必要な設備(情報通信機器、セキュリティ対策が講じられた通信環境など)や体制が整備されていること。
- 対象疾患・患者: 初診の場合には原則として対面診療の医師の指示が必要など、疾患や患者さんの状態によってオンライン診療の可否や条件が異なります。特に、生活習慣病管理料など特定の管理料を算定している患者さんに対するオンライン診療には、詳細なルールが設けられています。
- 診療計画: オンライン診療を行うにあたり、事前に患者さんと合意の上、診療計画を作成し、共有することが求められる場合があります。
これらの要件は定期的に見直されるため、常に最新の情報(厚生労働省のウェブサイトや医科診療報酬点数表など)を確認することが極めて重要です。
初診と再診における点数算定の違い
オンライン診療における点数算定は、初診か再診かによって大きく異なります。
初診の場合
原則として、保険診療としてのオンライン初診は、特定の条件(例えば、対面診療を行うことが困難な状況にあること、対面診療を行う医師からの情報提供があることなど)を満たす必要があります。算定可能な点数も限られており、対面診療による初診料とは異なる点数(オンライン診療料など)が設定されています。
医学的な必要性や安全性確保のため、まずは対面診療で診察を行った上で、病状が安定している患者さんに対して再診からオンライン診療に移行することが多いのが実情です。ただし、災害時や感染症流行時など、特別な状況下では初診からのオンライン診療の要件が緩和される場合もあります。
再診の場合
病状が安定している患者さんに対して、対面診療で診察を行った医師が計画に基づきオンライン診療を行う場合は、再診料や外来診療料に加えて、「情報通信機器を用いた場合の医学管理料」などを算定することが可能です。
例えば、生活習慣病管理料を算定している患者さんに対してオンラインで計画的な医学管理を行った場合、所定の点数を算定できます。この際、対面診療と同様の診療内容(問診、医学的な判断、指導管理など)を実施することが求められます。
算定可能な点数や加算は、診療内容や患者さんの状態、対象疾患によって細かく定められています。
特定の疾患や状況におけるオンライン診療の算定
オンライン診療は、生活習慣病、精神科、特定疾患管理など、様々な診療科や疾患管理において活用が進んでいます。それぞれの分野で、オンライン診療を用いた場合の特別な医学管理料や加算が設定されている場合があります。
- 生活習慣病管理料: 対面診療で算定している患者さんに対し、計画に基づきオンラインで継続的な医学管理を行った場合に、所定の点数を算定できます。ただし、定期的な対面診療との組み合わせが求められるなど、詳細なルールがあります。
- 精神科専門療法: 特定の精神疾患に対し、オンラインで専門的な精神療法を行った場合に算定できる点数があります。
これらの点数を算定する際には、疾患ごとの診療ガイドラインや、診療報酬点数表に記載された詳細な要件を全て満たす必要があります。単にオンラインで診察を行っただけでなく、診療内容が要件を満たしているかを確認することが重要です。
処方箋発行とオンライン服薬指導
オンライン診療で診断や処方を行った場合、原則として処方箋を医療機関から薬局へファクシミリ等で送付し、原本は後日郵送します。患者さんは、オンライン診療後に最寄りの薬局で処方薬を受け取ることになります。
患者さんが希望し、一定の条件を満たす場合には、薬局薬剤師によるオンライン服薬指導を受けることも可能です。この場合、医療機関と薬局、患者さんの間でスムーズな情報連携が求められます。
保険請求(レセプト)に関する実務上の注意点
オンライン診療の保険請求(レセプト作成)においては、対面診療とは異なる記載方法や留意点があります。
- 摘要欄の記載: 情報通信機器を用いた診療である旨や、特定の管理料を算定する際の要件を満たしていることを示すための詳細な記載が求められる場合があります。
- 診療年月日の確認: オンライン診療を実施した日付を正確に記載します。
- 診療種別のコード: オンライン診療に特有の診療種別コードを使用する場合があります。
レセプト記載のルールは、診療報酬改定や審査支払機関からの通知によって変更されることがあります。審査支払機関から提供されるレセプト作成の手引きや、関連するオンラインセミナーなどを活用し、正確な知識を維持することが、返戻や査定を避けるために重要です。
また、オンライン診療システムによっては、レセプト作成に必要な情報を自動的に抽出したり、記載をサポートしたりする機能を備えているものもあります。このようなシステムを活用することも、実務効率の向上に繋がります。
まとめ
遠隔診療を保険診療として適切に実施するためには、最新の診療報酬ルール、特に点数算定の要件やレセプト請求の注意点について、常に正確な情報を把握しておく必要があります。初診・再診の違い、特定の疾患管理における特例、処方箋発行の流れ、そして請求時の記載ルールなど、多岐にわたる項目を確認しなければなりません。
複雑に感じられるかもしれませんが、これらのルールを正しく理解し、日々の診療およびレセプト作成業務に反映させることで、遠隔診療を安心かつ円滑にクリニックの診療に取り入れることが可能となります。厚生労働省や関連機関が発信する最新情報を常に確認し、必要に応じて専門家(医師会、社保・国保担当、レセプトベンダーなど)に相談しながら、適切な保険診療の実施に努めてください。