遠隔診療におけるオンライン診療と電話診療の法務と実務上の違いと使い分け
遠隔診療におけるオンライン診療と電話診療の理解
遠隔医療の普及に伴い、医師の皆様が患者様と非対面で診療を行う機会が増えています。この際、通信手段として主に利用されるのが「オンライン診療」と「電話診療」です。両者は広義には「遠隔診療」に含まれますが、その定義、法的取り扱い、実務上の特性には重要な違いがあります。これらの違いを正しく理解することは、法規制を遵守し、安全かつ質の高い診療を提供するために不可欠です。
本稿では、オンライン診療と電話診療のそれぞれの特徴、法務上の留意点、そして実務における適切な使い分けについて詳しく解説いたします。
オンライン診療とは
オンライン診療は、情報通信機器を用いて、リアルタイムの画像・音声・情報のやり取りにより行う診療を指します。医師と患者様が互いの顔を見ながら、視覚情報も含めて診療を進めることが可能です。
法的位置づけと特徴
- 定義: 厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に基づき定義されます。
- 特徴:
- 患者様の表情や身体的な状態の一部を視覚的に確認できます。
- 診療中に検査データや画像情報などを共有しやすいです。
- 診療の質を対面診療に近づけやすいとされています。
- 保険適用: 特定疾患の管理料や外来診療料等に、情報通信機器を用いた場合の点数が設定されています。
電話診療とは
電話診療は、情報通信機器のうち、音声のみの通信手段(主に電話)を用いて行う診療を指します。画像やその他の情報をリアルタイムで共有することは基本的にできません。
法的位置づけと特徴
- 定義: 法令上の明確な定義は「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に含まれる形で示されることが多いですが、特にコロナ禍においては時限的・特例的な対応として広く実施されました。
- 特徴:
- 特別な機器を必要とせず、導入や実施のハードルが低い場合が多いです。
- 患者様にとってはスマートフォンの操作などが不要なため、手軽に利用できる場合があります。
- 視覚情報がないため、問診に頼る割合が高くなります。
- 保険適用: コロナ禍における特例的な対応として電話診療による初診や再診の点数算定が可能でしたが、現在は原則として対面診療やオンライン診療に移行しつつあり、適用範囲は限定的になっています(特定条件下の再診など)。最新の診療報酬改定情報を確認することが重要です。
法務上の違いと留意点
オンライン診療と電話診療では、診療ガイドラインや各種規制における取り扱いに違いがあります。
1. 診療ガイドライン上の位置づけ
- オンライン診療: 「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に基づき、対象疾患、初診の可否(原則は対面診療との組み合わせ)、システム要件、医師の研修義務などが比較的詳細に定められています。
- 電話診療: コロナ禍の特例措置として広く認められましたが、現在は原則としてオンライン診療または対面診療への移行が求められています。電話診療のみでの初診は、緊急の場合等を除き、原則として認められていません。再診に関しても、疾患や病状によっては限定される場合があります。
2. 患者同意と本人確認
- オンライン診療: 診療前に、情報通信機器を用いること、診療計画、緊急時の対応、情報漏洩リスクなどについて、患者様から適切に説明し、同意を得ることが求められます。本人確認も、顔写真付き身分証明書の提示など、視覚情報を用いた方法が推奨されます。
- 電話診療: 同意取得は同様に必要ですが、視覚情報がないため、本人確認がより難しくなります。氏名、生年月日、住所等の基本情報に加え、保険証情報などを確認するなど、より慎重な対応が必要です。
3. 診療録への記載
- 両者共通: 診療録(カルテ)には、遠隔診療である旨、用いた情報通信機器の種類、診療時間などを記載する必要があります。
- 電話診療: 視覚情報がないため、問診内容や医師の判断根拠をより詳細に記載することが重要になります。
4. 処方箋・薬剤交付
- 両者共通: 原則として院外処方箋を発行し、薬局で薬剤を交付する方法が基本です。オンライン服薬指導を行う薬局との連携が一般的です。
- オンライン診療: 処方に関する判断は視覚情報も踏まえて行えます。
- 電話診療: 問診のみで処方を判断するため、より慎重な適応判断が必要です。向精神薬など、特定の薬剤の処方には制限がある場合があります。
5. セキュリティとプライバシー
- オンライン診療: 厚生労働省が示すセキュリティガイドラインに準拠したシステム利用が推奨されます。情報漏洩リスクへの対策が特に重要です。
- 電話診療: 音声盗聴などのリスクはオンライン診療システムに比べて低いかもしれませんが、通信環境やプライバシーへの配慮は同様に必要です。個人情報を含む会話を周囲に聞かれないような環境で行う必要があります。
実務上の違いと使い分け
法的な違いだけでなく、実務における利便性や診療の質にも違いがあります。
1. 診療の適応
- オンライン診療: 比較的安定した慢性疾患の管理、専門外来、服薬指導後のフォローアップなど、視覚情報が診療判断に役立つケースに適しています。初診は、原則として対面診療や他の医療機関からの情報提供等との組み合わせが必要です。
- 電話診療: オンライン診療の導入が困難な患者様(高齢者、IT機器が苦手な方など)、急な体調不良に対する応急的な対応(ただし初診は原則不可)、対面診療やオンライン診療後の簡単な病状確認などに適しています。ただし、視覚情報がないため、詳細な診察が必要な場合や重症度の判断が難しいケースには不向きです。
2. 必要な設備・環境
- オンライン診療: カメラ付きPCまたはスマートフォン・タブレット、安定したインターネット環境、セキュリティ対策が施されたオンライン診療システムが必要です。
- 電話診療: 電話回線(固定電話または携帯電話)があれば実施可能ですが、プライバシーが確保された静かな環境が必要です。
3. コミュニケーション
- オンライン診療: 互いの顔が見えるため、非言語情報(表情、態度など)も伝わりやすく、患者様との信頼関係構築に役立ちやすいです。
- 電話診療: 音声のみのため、非言語情報は伝わりにくく、誤解が生じないよう、より丁寧で分かりやすい説明が求められます。
4. 緊急時の対応
- 両者共通: 遠隔診療で対応困難な急変時には、速やかに患者様の最寄りの医療機関への受診を促したり、救急搬送の手配を行ったりする体制を事前に構築し、患者様にも伝えておく必要があります。電話診療では、病状の視覚的な把握ができない分、より迅速な判断と対応が求められる場合があります。
まとめ
オンライン診療と電話診療は、それぞれ異なる特性と法的位置づけを持ちます。オンライン診療は視覚情報を用いた質の高い診療を比較的広い範囲で実施可能ですが、システム導入や操作にある程度の慣れが必要です。一方、電話診療は手軽に実施できますが、診療可能な範囲が限られ、病状把握には限界があります。
医師の皆様におかれましては、患者様の状態、疾患、ITリテラシーなどを総合的に判断し、両者の違いを踏まえた上で、適切かつ安全な通信手段を選択することが重要です。また、法規制やガイドラインは今後も変更される可能性がありますので、常に最新の情報を確認し、遵守に努めてください。両者を適切に使い分けることで、より多くの患者様に安全で質の高い遠隔医療を提供することが可能になります。