遠隔診療における同意説明文書作成の法務と実務ガイド:適切な情報提供と同意取得のために
遠隔診療における同意説明文書の重要性
遠隔診療を安全かつ適切に実施するためには、患者さんに対する十分な説明と同意(インフォームドコンセント)が不可欠です。特に遠隔診療においては、対面診療と比較していくつかの制約や特性が存在するため、これらの点を患者さんが十分に理解し、納得した上で診療に臨んでいただくことが極めて重要となります。この理解と同意を文書化するためのツールが「同意説明文書」です。
同意説明文書は、単に同意を得たという記録としてだけでなく、患者さんが遠隔診療の特徴やリスク、代替手段などを事前に把握し、安心してサービスを利用するための情報提供資料としての役割も果たします。また、医療機関にとっては、説明義務を果たした証拠となり、後々のトラブルを防止するための重要な法的・実務的基盤となります。
法的な位置づけとガイドライン
医師が患者さんに対して診療内容や予後などについて説明し、同意を得る義務については、医師法第17条に根拠があると解釈されています。また、医療法第1条の2第2項においては、医療提供の理念として、患者さんが適切な説明を受け、情報を提供される権利が定められています。
遠隔診療に関する具体的なルールとしては、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(厚生労働省)が最も重要なガイドラインとなります。この指針においても、オンライン診療の開始にあたっては、患者さんに対し、オンライン診療の特性や限界、緊急時の対応方法、個人情報の取り扱い、費用等について、適切かつ分かりやすい説明を行い、同意を得ることが求められています。
同意説明文書を作成・交付し、同意を得るプロセスは、これらの法的な説明義務およびガイドラインの要請を満たすための実効的な手段となります。
同意説明文書に含めるべき主な項目
遠隔診療における同意説明文書には、以下の項目を分かりやすく記載することが推奨されます。これらの内容は、個々の医療機関の提供する遠隔診療の内容や診療科の特性に合わせて調整する必要があります。
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遠隔診療の方法と利用環境に関する事項:
- 使用するシステムやアプリケーションの種類、接続方法
- 必要な通信環境や機器(PC、スマートフォン、カメラ、マイク等)
- 診療を受ける場所に関する推奨事項や注意点(プライバシーの確保等)
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遠隔診療のメリットとデメリット、限界に関する事項:
- メリット(例:通院負担の軽減、時間や場所の制約が少ない等)
- デメリット・限界(例:触診や視診等の身体的診察の制約、情報量の制約、システムトラブルのリスク等)
- 遠隔診療では対応できない症状や疾患の例
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代替手段に関する事項:
- 対面診療の選択肢があること、およびその場合の受診方法
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診療内容に関する一般的な説明:
- 遠隔診療で提供される医療の内容(例:慢性疾患の定期診療、専門外来等)
- 処方や検査が必要な場合の対応方針
- 緊急時や症状悪化時の対応体制、連絡先、連携医療機関等
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費用に関する事項:
- 保険診療としての費用算定(点数、自己負担額)
- 自由診療の場合の費用
- システム利用料や通信費の負担について
- 決済方法
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プライバシー・セキュリティに関する事項:
- 個人情報や診療情報の収集・利用・管理方法
- 通信の暗号化やシステムのセキュリティ対策
- 記録された診療情報の保管方法と期間
- 情報漏洩が発生した場合の対応方針
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同意の撤回に関する事項:
- 同意はいつでも撤回可能であること、およびその手続き
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記録の開示に関する事項:
- 診療記録の開示を求めることができる権利と、その手続き
同意説明と同意取得の実務
同意説明文書を作成するだけでなく、実際に患者さんに説明し、同意を得るプロセスも重要です。
- 説明方法: 文書を提示するだけでなく、口頭で分かりやすく補足説明を行うことが望ましいです。画面共有機能や、事前に文書データを送付するなどの方法が考えられます。患者さんの理解度を確認しながら進めることが重要です。
- 理解の確認: 説明後、患者さんが内容を理解したかを確認します。質問を促したり、内容を要約してもらうなどの方法があります。
- 同意の記録:
- システム上の同意機能: 多くのオンライン診療システムには、文書を表示し、患者さんがシステム上で同意の意思表示を行える機能があります。これは記録として残りやすく、後々の確認も容易です。
- 電磁的な同意文書: PDF等の形式で文書を患者さんに送付し、電子署名や署名欄へのタイプ入力などで同意を得る方法もあります。
- 書面: 文書を郵送等で送付し、署名・捺印後に返送してもらう方法もあります。
- 音声・動画による記録: 説明と同意のやり取りを音声や動画で記録し、保存する方法も考えられますが、記録の保管や管理、情報漏洩リスクに十分な注意が必要です。
- 文書の交付: 同意を得た文書(またはその写し)は、患者さんに交付し、いつでも確認できるようにしておくことが親切です。
作成・運用上の注意点
- 分かりやすさ: 専門用語を避け、平易な言葉で記述することを心がけてください。高齢の患者さんなど、デジタルデバイスの操作や内容理解に支援が必要な場合も想定し、必要に応じてご家族への説明なども検討します。
- 個別性: テンプレートを用意しつつも、個別の診療内容(疾患、治療方針、処方薬等)に関する同意は、診療時に個別具体的に説明し、診療録に記録することが必要です。同意説明文書は、あくまで遠隔診療という「方法」や「環境」に関する包括的な同意を得るための基礎文書として位置づけるのが現実的です。
- 定期的な見直し: 法改正やガイドラインの変更、提供サービスの変更等に伴い、同意説明文書の内容も定期的に見直す必要があります。
- 記録の保管: 同意を得た記録(システム上のログ、同意文書データ等)は、診療録と同様に適切に保管し、求めに応じて提示できるよう管理することが重要です。
まとめ
遠隔診療における同意説明文書は、患者さんへの丁寧な情報提供と適切な同意取得を保証し、ひいては医療機関のリスク管理にも繋がる重要な要素です。オンライン診療の適切な実施に関する指針等を参考に、自院の遠隔診療体制に合わせた分かりやすく正確な文書を作成し、同意取得プロセスを確立することで、患者さんからの信頼を得て、安心して遠隔医療を提供することが可能となります。適切な同意説明文書の作成と運用は、遠隔医療を継続的に発展させていくための基礎となる取り組みと言えるでしょう。